秦 恒平の「京のわる口」を読んだ。
京都人同士がふだん頻繁に使っている(わる口)ー辛口の(批評語)について考察した本である。
しょうもない、もっさり、けったいな、ややこし、しんきくさい、じじむさい、などなど。
長く東京に暮らす筆者は、京生まれ京育ち。
京言葉の特徴は「批評」で、それに深く関わっているのが「位取り」だと。
天皇制の社会は「位」がものをいう。
紫式部や清少納言が生きた貴族社会では「位」が全てで、それは現在にも通じる。
京都では人に負けてはならず「位取り」をよく考えろと訓練されてきた。
一見優しい言葉の中にある辛辣さが、ヨソさまにはなかなか理解されない。
上手に人をそしる術がないと、やっていけない。
京都好きと公言する酒井順子さんは、あとがきに書く。
京都人は自分の中に溜まった批評を批評と気づかれないように外に出す技術を持っている。
又、批評を口に出したら、相手の返球を待つ心構えがある。
「怒りをぶちまけ、事実そのままを言っているだけ」という正義派ぶった言い訳は、見事に粉砕されるとー、
京言葉のわる口の意味を、もってまわらずストレートに解説する姿勢は、極めて京都人らしくない。
それは、「京言葉にへこたれ、東京に遁走した」筆者だからこそできた。
この本は大胆かつ画期的な試みなのだともー。
その通り。
京言葉を解説した本は多い。
しかし、これ程、腑に落ちる感情を何度も味わったものは、なかなかない。